「秋のお祭りは収穫祭だよ!」
そう彼が最初に耳元で言う
「そうだろうけど、そんなこと思い出している人、今ここで、町のお祭りに参加している人たちの中にいるのかな?」
と私は心の中で思う
何にでも起源はあってやってきたことだと思うけど
定着してしまうとなんだかその本質はさておいてしまっていることって多い
いずれにせよ
楽しいのである
わが町のお祭りは
この町で四半世紀を過ごした形となった娘たちも毎年心待ちにして参加する
こもごも自分の好きな出店の様々な食べ物を買って
たくさんの提灯が明るく灯る歩行者天国の中
勝手気ままに立ち食いしながら
道路の真ん中を歩くことを許されるふた夜限りの夜を過ごす
中央では盆踊りの大きな輪ができている
おきまりの音楽だがなんとなく踊りたくなってしまう
その向こうにはおみこしを担ぐ人たちが
汗びっしょりになって
呼吸と脚をそろえて進んでいく
大きな大きな
「わっしょい」「わっしょい」の声が響く
こんな都会にいて
近所付き合いなんてほとんどなく過ごしていて
めったに話すこともなく
お店で「らっしゃい!」とは声かけられるけど
それなのに
お祭りになると妙に親近感が湧いて
すれ違いながら
出店の列に並びながら
なんとなく笑顔をかわしてしまう
自然に順番を譲り合ったりもできる
「この町にこんなに子供がいたんだね」
と彼が再び言う
「きっと普段は職場にいる時間が長いから気づかないんだな」
と私は思う
きっと昔は
子供も大人も楽しめる
めったにないイベントだったに違いない
天候に左右されながらも大きな収穫があればなおのこと
大きな喜びとともに町は賑わったことだろう
日常に埋もれてしまうと忘れがちな
“収穫”への感謝の気持ちを
少しは思い出してみた夜であった